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休職・復職の落とし穴 「医学」と「就業規則」がズレるとき

私傷病休職の「通算規定」に思わぬ落とし穴――東京地裁判決から考える休職・復職制度

2026年8月6日の労働新聞に、
私傷病休職の通算規定をめぐる東京地裁判決が紹介されていた。

記事によると、会社の就業規則には、休職期間の途中で復職した従業員が、同一または類似の私傷病によって再び休職した場合、前後の休職期間を通算する規定がありました。
ところが、この事案では労働者は休職期間の「途中」ではなく、「満了後」に復職していました。そして、復職からわずか1週間で再び欠勤に入っています。
会社としては、同一・類似の傷病による一連の休職として扱い、前後の休職期間を通算しました。

しかし東京地裁は、
就業規則に定められているのはあくまで「休職期間の途中で復職した場合」であり、休職期間満了後に復職した今回のケースには適用できない
と判断しました。

会社側は規定の趣旨を踏まえた類推適用も主張しましたが、これも認められませんでした。
その結果、休職期間満了による自然退職は無効とされ、
会社には1000万円を超えるバックペイなどの支払いが命じられています。

「私傷病休職 中断規定適用を認めず 満了後は対象外に 東京地裁」
https://www.rodo.co.jp/news/223787/

私傷病休職 中断規定適用を認めず 満了後は対象外に 東京地裁|労働新聞 ニュース|労働新聞社自然退職無効で地位確認ペットフードの輸入販売などを営む東京都内の会社で働く労働者が、私傷病休職満了による自然退職を不服としwww.rodo.co.jp

会社からすれば「同じ休職の続き」だったのだろう


この判決を読んで、会社側からすれば納得しにくいだろうとは感じます。

休職していた従業員が復職し、わずか1週間で再び欠勤に入った。
しかも、それが同一または類似の私傷病によるものであれば、
「実質的には前の休職の続きではないか」と考えること自体は、
それほど不自然ではありません。
実際、この会社もそのように考えたからこそ、前後の休職期間を通算したのでしょう。

しかし、そこで問題になったのが就業規則の文言でした。
会社には休職期間を通算する規定そのものはありました。

ただし、その対象が、
「休職期間の途中で復職した従業員」
となっていた。

今回の労働者は休職期間を満了してから復職しているため、文字どおり読めば対象になりません。
つまり、会社が想定していた休職制度と、実際に就業規則に書かれていた休職制度との間に、わずかなズレがあったわけです。

そして、そのズレが裁判では大きな意味を持つことになりました。

「同一・類似傷病なら通算する」だけではない


この判決から得られる第一の教訓は、かなり実務的なものだと思います。
自社の休職規程を一度確認してみることです。

たとえば会社として、
「同じ病気で再び休職するなら、前の休職期間と通算する」
という制度になっているつもりだったとします。

しかし、実際の就業規則にはどう書かれているでしょうか。

休職期間途中で復職した場合だけなのか。
休職期間満了後に復職した場合も含まれるのか。
復職後、一定期間以内に同一または類似の傷病によって欠勤・休職した場合には通算するのか。

このあたりは似ているようで、制度としては同じではありません。

「当然こういう意味だろう」と会社が考えていることと、
就業規則に実際に書かれていることが一致しているとは限らないのです。

今回の事案は、そのありがちな落とし穴が非常に大きな問題につながったケースとして読むことができます。

もっとも、報道されている内容だけから、「こういう一文を加えておけば会社が勝っていた」とまで断定することはできません。
実際の裁判では規定の文言だけでなく、復職時の状況やその後の経過など、さまざまな事情が検討されます。

それでも少なくとも、自社が意図している休職制度と就業規則の文言が一致しているかを確認する契機にはなる判決でしょう。

休職・復職には「医学」と「労務」の両方がある


そして、産業医としてこの判決を見ていると、もう一つ気になるところがあります。

休職・復職制度は、就業規則だけで完結するものではありません。
たとえば今回のように、復職後わずか1週間で再び欠勤したケースを考えてみます。

労務管理上は、
「前の休職と通算できるのか」
という問題になります。

一方、医学的には少し違った問いになります。

そもそも復職時点でどの程度まで回復していたのか。
復職後の業務負荷は適切だったのか。
再び欠勤するようになったのは、以前の病気の再燃なのか。
別の病態なのか。
あるいは、病気だけでは説明できない職場への適応上の問題が関係しているのか。

こうした評価は、就業規則を読んだだけではできません。
逆に、医学的に「同じ病態の続きだ」と考えられたとしても、
それだけで就業規則上の休職期間を通算できるわけでもありません。

ここには、医学的な連続性と、労務制度上の連続性という二つの問題があります。

そして実際の休職・復職では、この二つをすり合わせながら運用していく必要があります。

「同一・類似の傷病」の判断も意外と難しい


もう一つ、休職規程を実際に運用すると問題になりやすいのが、
「同一または類似の傷病」を誰が、どのように判断するのかという点です。

たとえば、
最初の休職では「適応障害」、
次の休職では「うつ病」という診断書が提出されたとします。
診断名が違うから別の病気、と単純に判断できるとは限りません。
逆に、診断名が同じだからといって、医学的背景までまったく同じとも限りません。

精神科領域では、診断名だけから病態の連続性を機械的に判断することが難しいケースもあります。
ここは就業規則の文言を整備するだけでは解決しないところです。

規定をどう作るかという労務上の問題と、その規定を個々の事例にどう当てはめるかという医学的な問題は、分けて考える必要があります。

裁判例は、自社の制度を点検する材料になる


今回の判決について、会社側の立場から見れば、「そこまで厳密に文言を読むのか」と感じるところもあるでしょう。

私自身、記事を読んだ第一印象としては、なかなか厳しい判決だと感じました。
しかし、実務上もっと重要なのは、この判決が妥当かどうかを論評することよりも、ここから何を持ち帰るかだと思います。

今回であれば、まず自社の休職規程を確認してみる。
同一・類似傷病による再休職について、どのような場合に休職期間を通算することになっているのか。
休職期間途中の復職と、満了後の復職はどう扱われているのか。
そして、実際に再休職が起きたとき、「同一・類似の傷病」をどのように判断する運用になっているのか。

就業規則という「制度」と、実際の休職・復職という「運用」の両方を見ておく必要があります。

休職制度は、作っておけば終わりではありません。
実際の休職・復職では、病気、本人の状態、職場への適応、会社の制度などが絡み合います。
だからこそ、制度上どこまで対応できるのか、医学的にはどう評価するのかを、その都度整理する必要があります。
今回の判決は、そのことを改めて考えさせられる事例だと思います。

まずは一度、自社の休職規程を開いてみてください。
「同じ病気で再休職したら通算するはず」と思っているそのルールは、本当にそのように書かれているでしょうか。